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無人の資料室でさし向かって座っているのは、御堂暁ことナポレオン・ボナパルトと、待田准教授ことタレーランである。


「ところで、わがは……いや、僕になにかご用でしょうか」


思わず普段の口調になりかけ、ナポレオンは慌てて訂正する。

タレーランは相も変わらず笑顔のままである。


「待田先生……?」


さすがに怪訝な面差しになって問いかけるナポレオンに、タレーランは「なに、大した用ではないさ」と肩をすくめて見せた。


「ただ、君に挨拶したかっただけだよ」

「挨拶、ですか」


いよいよなにか変だと感づいたのか、ナポレオンの顔から余裕が消える。

身構えんばかりに唇を引き結ぶ。

そんなナポレオンに詰め寄るようにして、准教授・タレーランは背を曲げ、いっそう顔を近づけた。





「お久しぶりでございます。

……皇帝陛下」