隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー




あたしはどうでもいいことを考えながら、御菜の野菜炒めを口に運ぶ。


「あ、そうだ緋奈子よ」

「ん?」


最中、ナポレオンが急に口を切った。


「我が輩、ちと待田講師にお呼ばれしてな。
食べ終わったらすぐに行ってくる」

「あんた、なにかやらかした?」

「そんなわけあるか。
まあ我が輩にも理由は分からんが、待田講師が笑顔で言うておったから、悪い話ではなかろう」


ナポレオンは下手なウインクをしてみせると、さっさと弁当を片付けて立ち上がる。


「では、我が輩はこれで」


上機嫌なお辞儀をすると、ナポレオンは食堂を後にした。






時間が経つ……。

あたしは弁当を突っつきながら、スキップをして歩いていくナポレオンの歩調を思い出していた。


ナポレオンは余裕綽々だった。

でもあたしは、なんだか心配だ。

ナポレオンを警戒しているんじゃない。

警戒してるというなら、むしろ待田准教授のこと。


もう三十路になるらしいけど。甘いマスクと社交的な性格と、あと独身なのもあって女性の職員や上級生には人気が高い。

恋愛的な意味ではなく、憧れみたいな感じの。

いつも柔らかな笑顔で、気遣いもできて優しいからね。

でも……気になるのは、その笑顔。

能天気ではなさそうなのに、待田先生は何を言われてもどんな状況でも、笑顔を崩さない。

最前線で講義サボってケータイ触ってる人がいても、待田先生は笑顔で講義をしてる。

悪く言えば……ときおり貼り付けたような笑顔を見せる人。

優しくていい人なのはわかるけど、ときどき垣間見せるどこか胡散臭い笑顔は苦手だった。