隣の部屋のナポレオンー学生・夏verー




資料室までやってきて、彼女は私の後ろで山積みにされた資料を机の上に置いた。


「ここでいいですか?」

「ああ、いいよ」


私は積まれた資料の上に更に資料を積み上げる。


「ありがとう、助かったよ」

「いや、全然ですよ。それでは」


快男児さながらに一礼し、彼女は資料室を出て行った。

薄暗い資料室のドアから、私は彼女の背中をじっと見つめる。


すると。


「あ、緋奈子」


自販機のそばで、彼女を発見した御堂暁が姿を現した。


「あ、そのコーヒーって新しく自販機に入ったやつ?」

「うむ、なかなか苦いぞ」

「でもけっこう甘めって書いてない?」

「もともとコーヒーは苦手だ」

「じゃあなんで飲んだ?」

「コーヒー飲める大学生っていかしてるとおもって」


御堂暁は冷たい缶コーヒーを片手に悔む。

彼は曽根緋奈子しか友人がいないのか、眼中にないのか、基本的に彼女の横にいる。


……少なくとも。


「いや、顔が良いだけでは駄目だと知っておるから、格好良さを求めるのだ」

「別にいいんじゃない?
面食いなら食いついてくれるだろうし」

「緋奈子みたいなか?」

「なんであたしなのよ」

「我が輩は覚えておるぞ?
入学したての頃、超イケメンの先輩に惚れ込んで、爽快なまでにこっぴどくフラれたことをな」

「え、まだ覚えてたの⁉︎」

「我が輩の記憶力を甘く見るんじゃない」


二人の言い争いは幼稚である。