「頼む、人助けだと思ったついでに食費が安くなったと思えばよかろう。
一石二鳥というものだ」
ナポレオンも引き下がらない。
「パンはどうすればいいのよ」
「パンも食べればいい。緋奈子がな」
「太るから却下するわ」
「大丈夫だ。
お前が太ったところで我が輩に支障が出ることはない」
こいつ……いっぺん2枚におろしたろか?
あたし斬る時の力だけは無駄に強いんだからね。
なんて、禍々しいことを考え始めたあたしだったが、そこでナポレオンがとうとう、あたしの前で合掌をして、
「今生の頼みだ。
我が輩の少食と御堂暁の体の弱さでは、この素麺地獄は切り抜けられん」
と、拝むように頼み始めた。
念でも送っているのか、硬く目を閉じて懇願するナポレオンを、あたしはじっと凝視する。
でも……もともと皇帝まで登りつめたようなプライド高い人が、こんなにすがるみたいに頼むくらいだし、よっぽどなんだろうな。
もう、しゃあないか。
「わかったわよ。
でもその代わり、あんたも頑張ってよね」
「緋奈子どの!」
あたしがうなづくなり、ナポレオンはパッと目を輝かせる。
「さすがは緋奈子!
イケボ!性格イケメン!抱いて!」
「ちょっと⁉︎ちょっと待って⁉︎
その最後のはアブない!」
ナポレオンの発言に驚愕しつつ、あたしは額に手を添える。
ここんとこ、あんまり大きな出来事がなかったから、こんなにナポレオンとバカ騒ぎしたのは久しぶりだ。
春に戻った気分……。
いまはめちゃくちゃ暑いけど。
思い返してみると、ナポレオンのテンションは春からまったく変わってないみたい。
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