真冬って名前が大好きだったのに、
あの日から、まるで他人の、知らない人の名前のようになってしまったんだ。
「――真冬の」
「…あ?」
「真冬の、人の人生の使い方を見下せるほど、あなたは凄い事をしたのですか?」
「何を言うんだ中卒が」
「そういうレベルでしか人を測れないのですか」
「あ?」
「…ずいぶん短いものさしですね」
「ぶっころされてえのか」
「…できんの? あんたに? そのみじけーものさしで刺せんの?」
ガシャンッ!
紺君が挑発したのを遮るように、ガラスの割れた音が駅前に響いた。
紺君が持ってた一本の一升瓶が、割れていた。兄の靴の先には、お酒が滴っていた。
…紺君の手には、ガラスが刺さり、血が滴っていた。
「こ、紺っ…」
「大丈夫ですか?」
顔面蒼白のあたしなんかに目もくれずに、紺君は口火を切った。
「今さっきまで後ろに、あなたのご友人らしき人があなたに話しかけようとしてましたけど」
「!」
「まあ、あなたが俺と喧嘩してるところを見て一目散に逃げていきましたがね」
「…わざとあのタイミングで挑発したのか…」
「…大学のご友人じゃないといいですね。大学で妙な噂がたったら面倒でしょうから」
「…ちっ…お前(真冬)に絡むと、いつもろくでもないことが起こる」
兄はそう言って、割れた一升瓶の破片を蹴散らして、タクシー乗り場に向かった。
あたしは、すぐさま紺君の血が滴った手を心臓より上にあげた。
「ちょ、タクシー乗ると勘違いされちゃうじゃないですか」
「そんなこと言ってる場合ですか!」
「落ち着いて下さい。大丈夫です。切ったのは手の甲だけだし、出血も少しずつ弱まってますから、じきに止まります」
「そ、そそそそんな訳…な」



