あゆ姉はにこっと笑ってあたしの手を握った。
そ、それより姉さん、踏んでます。光流君踏んでます…!
そうこうしている間に開店時間30分前になってしまった。
あたしたち3人は当然紺野さんに怒られた。
あたしは光流君やあゆ姉に教えてもらいながら一生懸命掃除をした。
そして、あたしにとって人生初の接客が始まった。
「い、いらっしゃいマセ」
まずい。緊張して吐きそうだ。
今まで一度もバイトなんかしたことが無かった自分。
皆みたいに自然にお客様を誘導することができない。
でも、緊張しているのに、なぜか楽しんでいる自分もいた。
だって、あたし今、ほんの少しでもこのお店の役に立つことができてる。
それが嬉しい。
本当に嬉しい。
はやく、色んなことを覚えたいな。
はやく、もっと役に立ちたいな。
はやく―――…
「すいませーん、オーダー…って、あれ、桜野さん?」
「え…」
と、その時、ちょうど同年代くらいの女性に名前を呼ばれた。
女性二人に、男性二人の4名様。
そのうちの1人が、あたしをじっと見つめている。
けれど、あたしはこの人に全く見覚えが無い。
すっかり困り果てていると、あたしの名札を見て『あ、やっぱり』と大声を上げた。
「やっぱり桜野真冬だ! え、何でこんなところで働いてるの!?」
「なに、みかちゃんの知り合い?」
「同小だったの。K学園の超お嬢様だよ。小学校の時も毎日ブランド服着てて有名だったもん」
「え!? K学園とかやばー。お嬢様なのにバイトとか、職場体験ってやつ?」
「体験とかウケるからっ。小学生か!」
目の前で次々に広がる話題に、全くついていけなかった。
あたしが話す暇もなく、あたしの話題で盛り上がっている。しかも全くの他人も巻き込んで。
あたしのことをからかうのはまだ我慢できる。でも、こんな店、なんて、言わないで。
「あ、あの、オーダーは…」



