方手で鍋を持ち、方手で扉を開ける。
「やっと来た」
そう言って、見ていた雑誌をパタンと閉じる葉上。
「お待たせ」
ニコリと笑いたかったけど笑えなかった私は、彼の部屋にあるローテーブルにお粥をおいた。
「食べさせたほうがいい?」
「子供扱いすんな、ボケ」
「ボケ…!?悪口なんて言わないで。バカ」
「お前こそ言ってんじゃねぇか」
葉上は笑いながら、ベットからローテーブルの前へやってきた。
ごめんなさい。笑ってあげられなくて。
もう、“笑顔”は忘れてしまったから。…でもいつか、あなたの前で笑えたらいいな。
―――そう思う理由はなんなんだろう。



