私は、顔は覚えてなかったけど、弟がいるってことは覚えてたよ。 幼い頃の弟の顔から“今”の弟の顔へと、脳に上書きさせた。 「え、……姉ちゃん…?」 弟の声はまだ完全に声変わりしていないのか、予想よりも少し高めだった。 でも、やっぱり低くて。男、って感じがした。 姉ちゃん、って言った? 覚えててくれたの? 目を丸くして、扉の取っ手をずっと握ってる弟。 「姉ちゃん、……静野 愛美ですか?」 私に聞く弟は、今、何を思ってるんだろう。 その言葉の裏には、どんな気持ちが隠されてるの?