その後は、地下で何故かたこやきを買った。

あまりにもいい匂いだから、吸い寄せられるように買ってしまったんだ。



「どこで食べるんですか?」


「どうしようか。」



しばらく悩んだ後、先生はぱっと笑顔になった。



「屋上に行こう!」


「屋上?」


「確かここは、屋上が解放されていたはず。そこにベンチもあるから。」


「はーい。」



地下から屋上って、すごい距離の移動。

エレベーターに乗って、屋上を目指す。



「あ、唯は花粉症だった……。」


「大丈夫です。今年の花粉は、そんなにひどくないから。」


「そう?ならいいか。」



屋上についた。

青空が、私たちを迎えてくれる。



「わー!すごく気分がいいですね!」


「でしょう?子どもの頃、よく家族に連れられて来たんだよ。」


「陽さんの、子どもの頃?」


「私にだって、子どもの頃はあったよ。」



そう言って、先生は笑う。



「陽さんの家族って、」



言いかけて、途中で口を噤んだ。

先生は、今まで一度も家族の話をしてくれたことがない。

だから、聞いてはいけないことだったのかと思ったのだ。



「私の家族?……両親と、兄と妹が一人ずつ。」


「えと……、」


「健在だよ。父も、母も。」


「そうなんですか!」


「でも……、長いこと会ってないんだ。」


「え?」



陽さんは、大きく息をついた。



「唯はどんなことがあっても、お母さんを大切に思ってる。それに対して私は、あまりにも小さいんだ。」


「陽さん、」


「両親は、心から私を心配していた。それを私はいつしか、疎ましく思うようになって。」



玲さんのことだと、すぐに分かった。

だから先生はきっと、15年の間両親にも会っていないんだ。

だから、私に何も話さなかったんだね。



「すまない。たこやき、食べよう。」



先生と、包みを開く。

ふわっと湯気が上がって、すごくおいしそう。



「一緒に暮らすって、自分の嫌なところばっかり晒すことだね。唯は、そんな私を嫌いになってしまうんじゃないかと思って、今まで言えなかった。」


「嫌いになんて、なるわけない。」



先生に伝えたかった。

どんなに言っても、足りない。

言葉では、言い表せることに限りがあって。

だけど、信じてほしいんだ。

私は何があっても、先生のことを嫌いになんてなれないんだと。


玲さんのこと、先生と一緒に、背負って生きていきたいんだと―――



「たこやき、おいしいですね。」



それなのに、私の口からはそんな言葉しか出てこなくて。

先生は、優しく笑って言った。



「おいしいですね。」



先生と一緒に暮らすこと。

夢みたいなこの時間が、玲さんという存在の上にあること。

それを、忘れてはいけない。


この青空の下、誓うよ。

先生を愛し抜くって。


世界中のだれもが、先生のこと嫌いになっても。

私だけは、先生の味方だよ―――


心の底から、そう思った。