次の日は、先生は用事があって高校に出勤しなくてはならなかった。



「行ってきます。」


「いってらっしゃい。」



うわあ、何だろうこれ。

まるで、まるで―――



「奥さんみたいだね、唯。」


「わ、そ、そういうつもりじゃ、」


「遅くならないうちに帰ってくるから。」



そう言って、片手を上げて微笑むスーツ姿の先生。

スーツの先生は久しぶりで、思わず見惚れてしまう。



「なんだ、唯。私を誘っているの?」


「へっ?!」



じっと見つめていたら、玄関の扉に手を掛けた先生が戻ってきた。

そして、私の頬に軽くキスをする。



「じゃ、行ってきます。」



すごく嬉しそうに目を輝かせて、先生はもう一度手を上げた。


いつもそう。

先生は、私を一方的にドキドキさせて、それで嬉しい顔をして。

自分だけ去って行くんだ。



「夕飯作って待ってます。」


「それは嬉しいな。楽しみだよ。」



そして、やっと扉の向こうに消えた先生。

こうして、これからもずっとここにいられたら。

先生を送り出して、また先生を迎え入れるこの家に。



鼻歌を歌う私の後ろを、しっぽを振りながらついてくるシロ。

そして、冷めた顔でネコ用の出入り口から出て行ってしまうたま。



ずっと、ずっと、こうして―――