そして着いた科学館は、山の上にあった。

プラネタリウムの始まりの時間まで、常設展を見たりして過ごした。

さっきのことはなかったみたいに、私たち二人ははしゃいでいた。

もしくは、わざとなかったことにするみたいに。

切ない思い出は、楽しい思い出で塗り替えてしまおうとしたんだ。


サイエンスショーで、液体窒素に漬けたバナナで釘を打つ場面とか。

月面で体重が6分の1になるのを体験したりとか。

無邪気な子どものように笑う先生と、束の間の楽しい時間を過ごした。

ううん、束の間なんて言葉は、もう使わなくていいはずなのだけれど。

それでも、やっぱり先生という存在は透き通っていて、今にも消えてしまいそうだったから。



「やっとプラネタリウムだね。」


「久しぶりだから、すっごく楽しみです!」



先生と私は、暗いドームの中に入った。

休日なのに空いていて、ドームの中にはちらほらと観客がいる程度だった。



後ろ寄りの中央に座ると、先生は椅子を大きく倒した。

私も、真似をして先生と同じ角度まで倒す。

先生の顔がすぐ近くにあって、なんだかドキドキした。



プラネタリウムが始まる。

最初は、科学館の人による星空解説だ。



「スクリーンに映っているのは、午前11時現在の空です。それでは、次第に時間を進めてみましょう。」



太陽が、東から西に移動する。

ゆっくりと沈むと、ドーム全体が暗くなり、夜が訪れる。



「3月21日、今日の星空です。みなさん、一番星を見付けてみてください。」



ひとつずつ星が現れて。

最初は数えられるのに、段々数えきれなくなっていく。



満天の星空に、目を奪われていたら。

右手がそっと握られた。

その弱々しさに、切なくなる。

だから私は、先生の手に縋るように、強く握り返したんだ。



このとき先生は、何を思っていたんだろうね。

先生を愛しているのに、あと一歩踏み込めない私のとなりで。

好きとか、愛してるという言葉では埋められない何かを、ふたり、必死に追い求めながら。