さっきまで、あいつは生き生きと語っていた。
3年後の俺達の時間に突然現れ…
まるで3人で会話している様な気分になっていた。
それは…明るい夕暮れが見せてくれた幻想か…
画面が暗くなり、くすんだ水色の空間に感じたのは…
過ぎてしまった時間の気配…
やっぱ画面の中の時間はどう足掻(アガ)いても、3年前の過ぎた過去なんだ。
俺達の今に、お前はいない……
静かな水色の画面から、3年前の紫の声が聴こえた。
今度は窓の外からじゃなく、ドア側から。
店を閉め帰ってきた紫が、階段下から呼びかけていた。
『流星ー ただいまー!
遅くなってゴメンねー!』
『お帰り 紫!』
嬉しそうな顔して明るい声で答え、あいつは椅子から立ち上がり画面の外へ一歩足を踏み出した。
そして「あ…」と思い返して戻って来ると、ビデオカメラに顔を近付ける。
『君が帰ってきたから、もう行くよ。
まだここに俺の幸せな時間は流れている…
もう少し、後少し…
君の隣に居られる時間は、続いているんだ…』
『流星ー?』
紫の声と階段を上る足音が近付いて来る。
『ヤバ…』
慌てた声の直後に流星の顔は消え、画面は青い待機状態に戻った。
チビは「父ちゃん終わり!」と明るく言って、小さな手を一つ叩いた。
「そうだね…素敵なビデオレター…終わっちゃったね……
紫龍、父ちゃんのビデオは終わりだけど、これからは、大樹が紫龍の父ちゃんになってくれるって」
「大樹?」
「おう」
「オレの父ちゃん、大樹?」
「そうだ。
今日からお前の父ちゃんは俺だ。文句あるか?」
「えー!めんどくせぇ!」
「お前…“めんどくせぇ”の使い方、間違えてっぞ…」
紫はうっすらと目に涙を滲ませ、笑っていた。
チビは俺の膝の上で体を反転させると、俺の顔に柔らかい頬っぺたを擦り付け
「キャハハ」と笑っている。
俺は…
チビの背中を左手で支えながら、右腕を伸ばし、紫の肩を抱き寄せた。


