その時、ソファーの後ろでゴソゴソ音がした。
慌てて話し声を潜めたが、遅かったみたいだ。
ムクリ起き上がった紫龍は、タタタッと走ってソファーとテレビの中間地点に立つ。
茶色の柔らかい髪が寝癖だらけだ。
まだ半分眠った面して、目を擦っている。
眩しそうに目を細め、テレビ画面を見た紫龍。
その寝ぼけ眼(マナコ)に流星の姿が映り…
チビはびっくりしたみてぇにパッと目を開けた。
チビは写真の中の流星しか知らねぇ。
動画で見んのは、多分これが初めてだ。
「あっ!父ちゃん!
母ちゃん、父ちゃんテレビに……
あっ!!大樹いるー!ヤッター!!」
チビは紫の隣に俺が座っている事に気付くと、
興味の対象を画面の父親から、俺に移してしまう。
仕方ねぇよな…
まだ3歳になったばかりのこいつにとって、
父親の流星より、遊んでくれる俺の存在が嬉しいのは、仕方ねぇんだ…
駆け寄ってきて、膝をよじ登ろうとしているチビを抱き上げ、膝の上に座らせた。
完全に眠気の吹っ飛んだクリクリの目が、嬉しそうに俺に向いた。
「お前起きちまったのかよ…
夜中だぞ?もう一遍寝ろ」
「ヤダ、遊ぶ!
オレ大樹とサッカーやる!」
「夜はダメだ。
朝になったら遊んでやっから」
「えー何でー?」
「何でもくそもねぇ。
夜は寝るもんなんだ」
ブーブー文句たれるチビを見て、紫が言う。
「紫龍、父ちゃんのビデオ一緒に見よう?
それが終わるまでは起きていていいよ」
「えーしょうがねーなー」
「お前、なんで上から目線なんだよ…」
チビは俺の膝の上で足をバタつかせ、テレビに視線を向ける。
こいつの将来像みたいな面したあいつが、静かな微笑みを湛(タタ)えて俺達3人を見ていた。
いつの間にか画面の明るさは落ちて、流星の髪や瞳を輝かせていた夕日は、どこかに消え去っていた。
薄暗い水色に支配された空間…
流星の着ている白いワイシャツも、くすんだ色に変わって見えた。


