紫の髪に鼻先を埋めると、ラベンダーの香りを感じた。
おかしいよな…
ラベンダーの香りなんて当たり前過ぎて、こんな風に意識するもんじゃなかったのにな……
腕の中で落ち着きを取り戻した紫も、俺と似たような事を感じていた。
「大樹の匂いがする…何でだろう…
慣れ親しんできたいつもの香り…当たり前だったこの香りが…
今日は何だか心地好い……」
腕の中の紫は、体の力を抜き、俺に全てを委(ユダ)ねてくれる。
小せぇ肩…細い腕…
これからは俺に守らせてくれるのか…
流星は静かに俺達を見ていた。
どこかホッとした様な面して…
新しい道を歩みだそうとしている3年後の俺達を、優しく見守っていた。
流星が背もたれに体重を乗せると、椅子がキィッと小さく軋んだ。
その音で紫がハッとして俺から顔を離し、振り返ってあいつを見た。
「流星…私……」
『それでいいんだよ…紫……
君が俺を愛してくれる気持ちはそのままに…大樹への愛も感じ取って……
君達の人生は、この先何章も続いて行く。
キラキラと輝く沢山の楽しい出来事で、ページが埋まって行くよ。
紫龍の成長も楽しみだよな…
今紫龍は3歳…毎日元気一杯走り回っている事だろうね。
大地を感じ…風を感じ…
ラベンダーと星空を見てすくすくと成長した彼は、いつかはファーム月岡を継ぐのかな…
楽しみだね…
働いている時も家族団欒の時間も…日常はいつも笑いで溢れている。
俺には君達の眩しい未来が見えるんだ。
忘れないで…いつも幸せは側にあるって事…
君と君の大切な人達の側に…いつまでも……』
「…流星… ありがとう……」
『ん……
そうだ大樹、白い封筒の中に、DVDだけじゃなくアレも入れて置いたんだけど気付いてくれた?』


