『正確!緑色は紫が大樹に感じる愛の色。
安心、信頼、自然、不変…
波のない、落ち着いた愛情の緑色。
長年連れ添った夫婦が最終的にたどり着く、愛情の最終形態だよ。
もし俺がお爺さんになるまで長生きしていたなら、俺への愛も最終的にはグリーンに染まっていた事だろう。
俺への愛と大樹への愛は別物じゃない。
青色の行き着く先は、緑色。
どう?分かってくれたかな?』
紫は青から緑へ変化する想像の直線上を、何度も往復していた。
それから噛み締める様に流星の言葉をゆっくりと反芻(ハンスウ)する。
「青色の行き着く先は緑色……
流星への愛の形の延長線上には…大樹への愛の形…………私は大樹を愛して…る…?」
語尾がまだ疑問形だな…
まぁ、俺だって納得させられた様な、そうでもない様な、妙な気分だ。
流星の言った事が正しいとすれば、長生きしてたらあいつも、いつかは俺みてぇな扱いに変わるってことか?
一緒に暮らした5年で、あいつも尻に敷かれつつあったけどよ…
何年連れ添ったって、少なくともバカにされる事はねぇだろ。
やっぱ俺とあいつじゃ…何かが違う気がすんだけどな……
論じ終わった流星は満足した面してっけど、紫も俺もピンと来てねぇ。
流星の直線理論に何て反論したらいいのか分かんねぇが…感覚的にしっくり来ねぇ。
それはこいつも同じだ。
右隣の紫は、俯き加減にぶつぶつ独り言を言っている。
「流星への愛と大樹への愛…大樹への愛?
…愛…愛って、そもそもなんだろう…」
『愛とは何か…』
随分根本的っつーか、哲学の領域で悩み始めたな…
どーすんだよ、こいつ……
こっちの事情を知らずに、一人だけスッキリした面を見せていたあいつだったが、
少しして俺らの頭が疑問符だらけになってるのに、やっと気付いたみてぇだ。
『んー…やっぱこの説明じゃ駄目かな……
いいと思ったけど、頭じゃなく心で分かって貰わないと、説得は難しいか……』
足を組み替え肘掛けに頬杖をつき、画面の中で考え始めたあいつ。
そんで15秒程経ってから、性懲(ショウコ)りもなく、また「想像しろ」と言い出した。


