それは普通のシュークリームと少し違った。
紫が作ったヤツは、農業、酪農、ラベンダーと言う、ご当地色を強く出した物だ。
素材は全て富良野産。
凹凸の少ない滑らかな表面のシュー皮は、米粉で出来ていて、
そん中にはクリームチーズと生クリームで作った、レアチーズケーキみたいな味のクリームがたっぷり入っている。
チーズのコクがある分甘さ控え目で、俺なら一度に三つは食えるな。
シュー皮の上部は薄紫色に色付けしたホワイトチョコでコーティングしてあって…
俺、この試作品を初めて食わされた時によ、
「見た目、蒙古斑(モウコハン)みてぇだな…」
って感想を言ったんだよ。
当然すぐに紫のげんこつが飛んできた。
仕方ねぇだろ、俺にはそう見えたんだ。
シュークリームなのに表面はやけに滑らかで、ボコボコしてねぇから子供の尻みてぇだし、
そこに薄紫色のチョココーティングなんて、まさに蒙古斑だろ。
紫は
「大樹なんかに感想聞くんじゃなかった」
って怒ってたけど、
流星は真顔で
「それ…面白いかも…」
って言ったんだ。
まだ商品名を決めていなかったそのシュークリームに、
流星は『富良野のもうこはん』と変な名前を付けた。
『インパクトがある名前は客の記憶に残るし、メディアにも取り上げられ易い』
そう言ってあいつは、反対する紫としばらく討論していた。
結局紫は言い負かされ、商品名は『富良野のもうこはん』に決まったんだけどよ、
尻に浮かぶ蒙古斑なんて、そんなイメージのシュークリームが売れる訳ねぇだろ。
流星以外の誰もがそう思い、今年限りでこの商品は消えるだろうと諦めていた。
けど何か知んねーけど、売れ行きは好調だ。
当初の目論(モクロ)み通り、客寄せのご当地スイーツとして今も活躍しているし、ほぼ毎日完売だった。
風に乗り、紫の声がまた聴こえてきた。
『富良野のもうこはん……致しました……ありがとうござい……』
この日も完売したみてぇだな。
その声に耳を傾けていた流星は、クスリと笑い、机の引き出しを開け、一冊の本を取り出した。


