流星は深く椅子に座り直すと、優しい視線を俺達に向け、口元を綻ばせる。
『やっと泣けたみたいだね…それでいいよ。
たまには泣くことも必要なんだ。
けど一つだけ注文がある。
泣きたい時には今みたいに、大樹の隣で泣いて…一人で泣かないで…
大樹の服で涙を拭いて、タオル代わりにしちゃっていいから、ハハッ!』
「とっくにされてるっつーの…
何だよてめぇら、2人して俺をタオル扱いしやがってよ…」
さっきは紫にグラスの水滴で濡れた手を拭かれたが、
今もこいつは流星に言われるまでもなく、俺のTシャツの袖で涙を拭いていた。
こいつらは、ティッシュと言うもんの存在を知らねぇのかよ…
夫婦して俺をタオル扱いすんのに呆れながら、
目の前のローテーブルの上にあった箱ティッシュを掴み、紫の手の中に押し込んだ。
そんな様子まで見えてるかの様に、流星は画面の向こう側からこっちを見て笑っていやがる。
ティッシュで涙と鼻水を拭き、泣き続ける紫。
流星はその姿を画面越しに見つめていたが、ふと何かに気付き、目線を右に振った。
目を閉じ耳を澄ませ、注意を屋外に向けている。
あいつの口元は、柔らかく笑っていた。
流星が何に気を取られているのか、すぐに分かった。
それは紫の声だ。
北側の窓から入って来る背景音に、3年前の紫の声が小さく混ざり流れて来た。
『………残り10個になりましたー…お早めにお買い求め……』
途切れ途切れに聴こえてくる客を呼び込む紫の声に、アレを売っている所かと納得していた。
「限定数のスイーツは客を呼ぶ!」と紫は言い、
3年前のこの夏から、新商品のシュークリームを売り出したんだ。


