机に遮られ映ってねぇが、あいつが組んでいた足を下ろしたのが分かった。
画面の向こうには相変わらず観光客の明るい声が聴こえ、
出入りする車のエンジン音に、野鳥の囀(サエズ)りも聴こえていた。
そんな長閑(ノドカ)で呑気な観光地の背景音が部屋に流れる中、
あいつの周りだけ空気が僅かに比重を変えた気がした。
何もかも見透かしたかの様な茶色の瞳が、3年後の紫を静かに見つめていた。
流星は背もたれから背を離し、机の上に両手を組み合わせて置いた。
少し前屈みに顔をビデオカメラに近づけると、俺が望んでいた言葉を語り出した。
『紫…君はあの約束を守ろうとしてくれる。
俺の死後、撮り溜めた沢山の写真を見ながら、大樹に想い出話を聞かせ、笑顔を見せている事だろう。
そうしてこの3年の月日を、約束通り君は強く生きてくれた。
頑張ってくれてありがとう…
俺の居ない時間に空間に…必死に堪えてくれてありがとう…
君は凛として強く美しく、優しい香りのする女性だ…
そのラベンダーのイメージを君に重ねてしまうのは、昔もこの5年間も変わらない。
いや…そのイメージは益々強く刻まれたみたいだ。
君は強い。
どんな苦境も乗り越える力を持っている。
俺はそれを知っているよ。
だからね…この辺りで少し肩の力を抜いてみようか。
押さえ込んでいた感情を吐き出し、強張る心を解放して、深呼吸してみよう。
紫龍の寝顔に俺の面影を探してしまう時、
俺の痕跡の色濃く残るこの書斎に切なくなる時、
星空を見て、記憶の中から神話を語る俺の声が蘇る時、
そんな時は淋しいよね…
俺に逢いたくなるよね…
紫…泣いてもいいよ。
泣いて涙と共に、溜め込んだ切なさを流してしまうといい。
君は泣いても枯れたりしない。
笑って再び花を咲かせる……そうだろ?
涙しても君は笑顔を失わないと、俺は信じているから。
だからもう、我慢しなくていい…』


