出産予定日にはまだ二ヶ月も早いが、紫は破水していた。
弾かれて地面に転んだ衝撃か、それとも精神的な衝撃のせいか…
破水した後すぐに陣痛も始まり…
紫はあいつの名前を泣いて叫びながら出産した。
やべぇ…
あん時の紫を思い出したら…今でも目頭が熱くなりやがって、やべぇな……
予定日より二ヶ月早く産まれた紫龍は、細くて小っこかった。
保育器の中のチビを見て
「大丈夫かよ…」と思わず呟いたが、
そんな心配した事なんか笑えるくらいに、こいつは見る見るでかくなり、今は元気で毎日煩ぇ。
健康で元気に育ち、幸せ顔して笑う紫龍……
それが紫の救いであり、肝心な時に紫の側にいなかった、間抜けな俺の救いでもあんな……
紫龍がまた寝返りを打つ。
今度は大胆な寝返りだ。
頭は完全に枕から外れ、体は布団に対して直角になっている。
寝相が悪りぃ。
おまけに「プッ、ブブブ」と屁もこいた。
それを見て俺達は笑う。
「いっちょ前に臭ぇな。
こいつ昼でも夜でもやたら屁こいてね?
芋食い過ぎなんじゃねぇの?」
「それは大樹のせいでしょ?
俺が作ったジャガイモ食わせろって、食べ切れない程持ってくるから」
「何だよ…チビが屁こいたのも、口が悪りぃのも、全部俺のせいかよ…」
「ふふっ そうそう!」
紫は笑う。
紫龍を見て笑ってる。
その笑顔は嘘じゃねぇし、間違いなく心からの笑顔だ。
けど…
俺にはその笑い顔が、淋しそうにも見えんだ。
笑顔の陰に淋しさを隠し、紫はあいつにした約束を頑(カタク)なに守ろうとする。
そんなに気を張らなくて、いんじゃねぇの?
あいつの命日くらい、淋しいって泣いたって…あいつは怒らねぇよ…
俺は立ち上がり、ソファーの前に回った。


