振り出しに戻っちまったみてぇで、辛そうなあいつを見てると俺も苦しかった。
眉間にシワを寄せる俺に、壊れかけた心臓に手を当て、あいつは笑って言うんだ…
「ハハッ 大樹がそんな顔する必要ないだろ。
紫は大丈夫と言ってくれたのに、君はダメだった?
口の悪い君だけど、本心では俺のこと結構好きだもんな」
「キモイ事言ってんじゃねぇ。
好きな訳ねぇだろ。
なぁ流星…本当にお前それでいいのかよ…
前に言ってたよな?
再移植の可能性がどーたらって…」
「あぁ、昔医師にいずれ再移植が必要になるって言われた事についてかい?
前にも君に言ったけど、俺にはこの心臓が唯一無二の存在なんだ。
この心臓と最後を共にするのも俺の幸せで俺の生き方。
これだけは譲れない。
諦めて笑って見送ってよ」
「ハァ…俺には分からねぇな……」
心臓に対するあいつの気持ちは、俺には最後まで分かんなかったが、
息苦しさの中でもあいつはいつも笑っていて…
今が幸せなんだろうと言う事は理解した。
それが『俺の幸せで俺の生き方』
そう言う幸せの形もあんのかな…
そんな気がして、俺は二度とその話題を口に出さなかった。
幸せそうな面してたあいつだけど、店の仕事については…今までみたいに行かず、少し淋しそうだった。
体調を見て、調子のいい時は座った姿勢でレジ打ちをやり、ダメな時は一日中家ん中に居た。
あの日も体調のいい日じゃ無かった。
家族がみんな忙しそうに働いてる中、あいつは一人留守番していた。
働きたいのに働けない。
表面上では仕方ねぇと割り切っても、歯痒い思いしてたんじゃねぇかな…
けど「店に出られなくてゴメン」なんて言葉は、一度も口にしなかった。
あいつはいつも笑顔で、家族を見送っていたんだ。


