心臓病の遺伝という流星の不安は、幸いな事に外れていた。
こいつはすげぇ健康優良児だ。
普通は小せぇ頃って、鼻たれてんなと思ったら、すぐ熱出したりするもんじゃねぇ?
けどチビが熱を出した所は生まれてから一回しか見た事が無ぇ。
すげぇなこいつ。
母親の顔した紫が、寝汗で額に張り付いたチビの茶色の髪を指で後ろに流し、汗を拭いてやっている。
それから布団の上に膝を抱えて座り込み、淋しそうな面してチビの寝顔を見続け、もうパソコンの前には戻って来なかった。
写真見んのは終わりでいいんだなと思い、パソコンを終了させる。
画面が暗くなると同時に、薄暗いリビングの明るさが更にトーンダウンした。
カウンターテーブルのデスクライトは消さず、そのままにして紫の傍に行く。
紫の隣に胡座(アグラ)をかき、俺も熟睡しているチビを眺めた。
チビの名前は“紫龍(シリュウ)”
紫龍の『紫』の字は、勿論母親である紫から取ったものだ。
名前を付けたのは流星。
腹ん中で男だと性別が分かった時に付けた。
紫龍の『龍』を、流星の『流』の字にした方がいいんじゃないかと、紫は聞いた。
普通に考えたら、母親から一字取ったら父親からも…と思うよな。
けど流星は『龍』がいいと言った。
恩人の名前から、その字を貰いたいと言って譲らなかった。
その恩人が誰かは俺は知んねーけど、紫はその説明に納得していた。
自分の息子に付けるくらいだから、その『龍』の字をくれた奴は特別なんだろうな。
流星は紫に似てる子供が欲しいと言ったが、産まれた紫龍は流星にそっくりだった。
茶色の髪、茶色の瞳、笑窪まで同じ位置にありやがる。
まだ赤ん坊臭さを残す寝顔を見ても、こいつの10年後20年後の姿を簡単に想像出来る。
それくらい流星にそっくりな奴。
紫に似てる所は…無くはないか。
熟睡しているチビの耳をツンツンつつき、悪戯すると、
「バカ!起きちゃうでしょ?」
紫に頭を叩かれる。
チビは猫みてぇな仕草で耳を擦り、「ん〜」と唸ってまた寝返りを打った。


