リビングの端のカウンターテーブルで、パソコンに向かう俺達。
その数メートル離れたソファーの後ろで、声がした。
「んふっ…きゃははっ…
大樹…ばかぁ…」
笑いながらムカつく寝言を言うのは、この三年前の写真で紫の腹ん中に居た奴だ。
俺ん家もそうだけど、この家にもエアコンは無ぇ。
無くても窓を開ければ大抵は涼しいから、バテる事は無ぇんだ。
だけど今日はいつもより暑くて寝苦しいから、2階よりは涼しいリビングで寝かせると言って、
子供布団と紫の布団が、ソファーの後ろに敷いてあった。
そこで無邪気な面して、チビが寝てる。
リビングの時計の針は、深夜1時を指していた。
日付は変わっている。
今日7月19日は、流星の命日だ。
そんでそれは、チビの誕生日でもある。
三歳の誕生日を迎えたばかりのチビは、腹に掛けてあったバスタオルを元気良く蹴飛ばし、寝返りを打った。
薄暗い部屋ん中、プクプクで何か旨そうに見える白い腹とヘソが見える。
紫が椅子から立ち上がりチビの傍に行き、布団代わりのバスタオルを腹に掛け直した。
流星は初め、子供を作る事を渋っていた。
子供が欲しくない訳じゃねぇ。
自分が母親と同じ心臓病を持って生まれたから、
もしかしたら自分の子供もそうなるんじゃねーかって…
それが心配だったみてぇだ。
それに対し、紫はこう言った。
「流星は自分が生まれてこない方が良かったと思うの?
子供の頃の流星は走ったり出来ないし、少し歩いただけで唇が紫色になってた…
何度も手術を繰り返して大変な思いもしたよね…
ねぇ、生まれて来ない方が幸せだった?」
そう言われ、あいつは黙り込んだ。
そんで数秒考えてから、静かに首を横に振った。
「生まれて来て良かった。
君と巡り逢えたから。
壊れかけた心臓を抱えた子供時代も今も、君が隣に居るから俺は幸せだ。
産んでくれた母と育ててくれた父には、感謝の気持ちしかない」
「良かった…」
「ああ…そうだな。
紫、心配させてごめん。
俺も子供が欲しい。
子供を作ろう。君に似た、可愛い子供が欲しい」
「えー、男でも女でも、流星に似てる方が絶対可愛いと思うよ?」
―――――…
そんな話しがあって出来たガキが、そこで寝てるそいつだ。


