自分の命が尽きたら、紫は笑顔を失っちまうんじゃねーかって…
それに怯えていたあいつに、紫は約束した。
『泣くのは一週間で終わりにする。
その後は笑って、みんなで流星の想い出話をするから大丈夫』
『私は傷付いても枯れたりしない。
涙を流しても、その後にはちゃんと笑って花を咲かせる。
だから流星は、安心して私の傍に居ればいいんだよ。
私の隣で幸せになればいい』
あいつにしたその約束を、紫は確かに守っている。
三年前の夏、あいつが逝っちまって、紫はすげぇ泣いた。
こいつこれから先どうなっちまうんだろうって…
永久に悲しみから抜け出せねぇんじゃねーかって…
紫を知り尽くしてる俺が、そんな心配してしまう位に、こいつは嘆き悲しんでいた。
けど…やっぱり紫は紫だ。
あいつが逝った一週間後、腫れぼったい目のまま紫は笑った。
無理やり笑顔を作り、約束を守ろうと必死になってた。
それ以降、こいつが泣いている姿を見てはいねぇ。
高校生の時、流星が突然消え、おかしくなった紫が泣かずにヘラヘラ笑ってた時があったけど、あん時と今の笑顔は違う。
こいつは現実から逃げてねぇ。
あいつの死を受け止め、ちゃんと前を向いてる。
こいつの目を見れば、俺にはそれが分かんだ。
強い光りのある、真っすぐな目を見ればな…
けど…俺は紫が心配だった。
流星との約束を守ろうと、強く前を見てる紫が心配だった。
俺にはこいつが、自分でした約束にがんじがらめになってる様に見えた。
強く生きようと一生懸命なのはいいけどよ…
たまには悲しいって言えよ。
あいつが居ない今が淋しいって泣けよ。
たまになら、そんな時があってもいいだろ。
あいつだって怒らねぇよ。
強がってばかりだと苦しくねぇの?
張り詰めた糸が切れんじゃねーかって…
俺はそれが心配なんだ。
PC画面には、紫と流星の最後の写真がまだ表示されていた。
カメラ目線の紫と、紫を見て優しく笑う流星。
流星の目線は紫の顔じゃなく、腹に向いている。
こん時、ふっくらと膨らんでいた紫の腹ん中には、あいつのガキがいた。
紫がひたすらに流星との約束を守り、強くあろうとする理由の中には、きっとそれもある。
強い母親になろうと、あれから涙を一滴も流さねぇんだ…


