次の写真は…
紫が写真を見て微笑んだ。
「私、この写真好きだな…
大樹が写したやつだから構図はイマイチだけど、
流星…凄くいい顔してる……」
「構図…しょうがねーだろ。
俺は写真に興味ねぇ。
こいつがいい顔してんのは、隣に居るお前を見ているからだろ?
分かり切った、恥っずい事言ってんじゃねぇよ」
それは新鮮な朝日を浴びる人気のないラベンダー畑の中で、
紫と流星が手を繋ぎ、並んで写っている写真。
紫はカメラ目線だが、流星は紫を見て、柔らかく微笑んでいる。
これを写したのは俺。
ラベンダーが咲き始めた初夏の早朝5時半に、
「大樹今すぐ来て!大変なの!」
と、紫からの電話で起こされた。
何があったのかと思い、その辺に散らばってた服を被り、慌てて走って行ったら…
「あっ大樹、こっちこっち!
ねぇ写真撮って?流星と私のツーショット。
そう言えば2人で写ってる写真て、余りないなーって気付いたんだよね。
いつも私が写してるから」
そう言って、カメラを押し付けられた。
紫はいつも俺に遠慮は無ぇ。
「そんなくだらねぇ用で朝っぱらから呼び出すな!」
と怒った所で、効き目は無ぇ。
流星は「悪いね大樹」なんて言ってたけど、その面は笑いを堪えてるみてぇでムカついた。
そん時の写真…そんで……
「この写真が…最後の写真なんだ…」
紫がポツリと呟き、画面を見詰めたまま黙り込んだ。
網戸から吹き込む風のせいで紫の髪が大きくなびき、
顔の前に落ちかかり、表情を隠してしまう。
顔が見えねぇ事で、俺は急に不安になった。
「紫…お前大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
しっかりした声でハッキリと返事を返されるが、不安は消えない。
紫の顔を隠していた髪を雑に後ろに流すと、いつもの強い目線が俺に向いた。
気の強い瞳をして、紫は今日も笑顔を作る。
それを見て、胸ん中が痛くなった。
「淋しいなら淋しいって言え。
悲しいなら泣けばいいだろ。
無理すんな」
「無理してないよ。
私ね、流星と再会した時に約束したんだ。
流星が死んでしまったら大泣きするけど、それは一週間だけにするって。
一週間、目一杯泣いた後は笑うから大丈夫だよって…そう言ったんだ」
自分に言い聞かせる様に話すその台詞は、もう何度も聞いた。


