新婚旅行の写真を見ながら、紫は想い出話しを喋っていた。
それに適当に相槌を打ちながら、冷蔵庫の中を物色する。
缶コーヒーがあったけど無糖だ。
飲めなくはねぇが、微糖くらいの甘さが好きだ。
今日はコーラが無ぇみたいだし…眠気覚ましになりそうなのはこれだけか。
チッ、仕方ねぇ。
ここん家で飲み食いする物に「貰っていいか?」と一々聞いた事はねぇ。
勝手に出した缶コーヒーのプルトップを開けながら、再びカウンターテーブル前の回転椅子に戻った。
新婚旅行の写真を見終えた紫が今開いているファイルは、『流星』とタイトルが付いた物。
紫が撮り溜めてきた5年分のあいつの姿が、次々と画面に展開されて行く。
それを紫は嬉しそうな淋しそうな…複雑な顔して見つめていた。
似合わねぇ作業着姿で、ラベンダー畑の中、汗を流して働いている姿。
家族でジンギスカンを食ってる時の、肉を口に入れる瞬間の間抜けたあいつの顔。
夕暮れ時の書斎で山積みの本に囲まれてる写真は、
俺には読めねぇ外国の本を読んでるあいつの顔を夕日が照らし、
ムカつく程綺麗な面に見える。
それと、珍しい物を見たかの様に、リビングの窓から雪景色を見て感動している時の横顔。
俺の弓の射会を見に来た時に撮ったやつには、紫に命令され俺と肩を組まされ、
微妙な笑顔で写ってるあいつが居る。
そんで次は…
あいつの肩の高さにまで成長した、柏の幼木と並んで写っているやつ。
この柏の木は昔、柏寮の庭から拾ってきたドングリが芽を出し、成長したやつだ。
紫はすげぇ大量のドングリを埋めていやがったけど、無事に成長したのは5本。
まぁ、そんなもんだろ。
ビニールハウスの中で苗木にまで成長させ、それを植樹した場所はファーム月岡の店の南側。
駐車場と店舗入口の間だ。
「駐車場からの排気が、店内に流れるのを防いでくれそうだし、気持ちの良い木陰が出来ればいいね」
紫はそう言っていた。
5本の柏の木は今も順調に成長し、この写真の時より、プラス1メートル程背が伸びている。
後数年もすれば、幹も太く枝振りも立派に沢山の葉を茂らせて、
真夏の強い陽射しから、店を守ってくれんじゃねーかな。


