溺れている人に安易に近付くと、しがみつかれて危険なのは知っている。
幸いなことに、かなりパニック状態の横山さんは、俺が飛び込んだことに気付いていなかった。
彼女に気付かれないよう慎重に背後に回る。
左腕で一気に体幹を抱え、右手でペットボトルを彼女の顎下に固定した。
立ち泳ぎを続け、暴れる彼女に言う。
「もう大丈夫。体の力を抜いて。
顎下に浮きがある以上、溺れることはないから。
俺の言うこと聞いて、絶対に助ける」
耳元で大丈夫だと繰り返し言い聞かせる内に、彼女は冷静さを取り戻した。
俺の言うことに従い、体の力を抜いてくれた。
自分でペットボトルを持つように言い、彼女の体を抱えてゆっくり泳ぎ出す。
掘の淵まで無事にたどり着くと、駆け付けた公園管理人の大人達が、俺達を引っ張り上げてくれた。
「横山さん、大丈夫?
怪我してない?」
水を飲んでしまったが、怪我はないようだ。
ホッと気の緩んだ彼女は、泣きながら抱き着いてきた。
その背中を撫でてやりながら、俺も深い安堵のため息をついた。
――――…


