「じゃあ、逃げないで式に出なよ。
ちゃんと2人におめでとうって言いな。
紫ちゃんが『大樹は?』って目で、キョロキョロして不安そうだったよ?」
「……後で行く。
あいつらが、色々やることやった後に顔出す…」
僕に背を向け、新しいラベンダーソフトクリームを作り始めた大樹。
その言葉と態度から察すると、大樹は2人を祝うのが辛い訳でも、結婚式に出るのが嫌な訳でもないみたいだ。
多分、結婚式の“ある場面”だけが見たくないのだと思う。
それは2人のチュー。
司会の亀さんに進行表を見せてもらったら、『誓いのキス』と言う項目はしっかり入ってた。
大樹って可哀相な奴だよね。
2人の結婚を、気持ちの面で消化できてるとは言え、彼女を愛する気持ちは消せない。
報われない想いを抱え、2人の傍で生きて行くのか。
あー僕は紫ちゃんに本気にならなくて良かった。
「後で顔出す」と言う大樹の言葉を信じ、僕だけ急いで式場に戻った。
大勢の観光客が遠巻きに見ている中、大ちゃんがマイク片手にスピーチしていた。
人前式は神様じゃなく、列席者のみんなを証人に愛を誓う。
ここが大ちゃんの見せ場だよね!
どんな言葉が聞けるのか…
と思ったら、拍手が沸き起こり、スピーチは終了した。
しまった…
大樹に構っていたら、聞き逃しちゃった……
でも、大ちゃんが何を言ったのかは、周りの人達を見れば、大方の想像がついた。
隣に立つ紫ちゃんは、色白の頬を耳まで赤く染め、ポーッと熱っぽい瞳で大ちゃんを見ているし、
彼女の地元友達の女の子の中には、鼻血を出し、慌てている子もいる。
遠巻きに見ている観光客が指笛を鳴らし、
「映画の台詞みたいだねー」
なんて感想も聞こえてきた。
大ちゃんはきっと、あの王子様みたいなルックスで、
一般男子には決して言えない、ロマンチックな愛の言葉を並び立てたのだろう。
ツッコミ入れちゃいそうだから、僕聞かなくて良かったかも……
その後は指輪の交換で、紫ちゃんの指にはめられたのは、もちろん紫水晶のついた金のリング。


