大樹は布団の上に胡座(アグラ)をかき、寝そべる私を睨みつける。
朝から不機嫌だね…
変な夢でも見た…?
と思ったら違った。
「何怒ってんのよ?」
「てめぇのせいだろーが」
「私のせい?どうして?」
「珍しくお前から引っ付いて来て、キスまでして来たと思ったらよ……
寝言で『流星』って呟きやがって……
あいつの夢見んのは勝手だが、俺をあいつの代わりにすんな。…ったく…」
ヤキモチか。
夢の中で流星が言った通りだと納得していた。
今更ヤキモチなんて焼かないと思っていたのに、嫉妬する時もまだあるんだ。
ふーん。
別に大樹を流星の代わりにしているつもりはない。
寝ている時の行動なんだから、一々目くじら立てないで欲しい。
私も布団の上に起き上がり、手櫛で髪を整えながら反論する。
「代わりなんて思ってないよ。
大樹は大樹。
あんたが流星の代わりなんて、そんなの流星に失礼じゃない」
「お前は…マジで可愛くねぇ事ばかり言いやがって……
素直で可愛いのはあいつの前だけか?
俺の前でもたまには可愛い事言ってみろ」
「流星に対する態度と、大樹に対する態度を、同じに出来る訳ないでしょ?
『俺をあいつの代わりにするな』とか言っておいて、思いっ切り矛盾してるよ。バカだね」
早朝から喧嘩していると、ドアがコンコンと音を立てる。
振り返ってそっちを見ると、パジャマ姿の紫龍がいた。
暑いから開け放していたドアに背を持たれ、呆れ顔をして私達を見ている。
「『夫婦喧嘩は犬も食わない(意味:放っとけ)』って言うけどさ、
余りにも恥っずい内容だから、止めたくなった」
「あ゙?犬?
夫婦喧嘩を犬が食う訳ねぇだろ。
お前、寝ぼけてんのか?」
「紫龍、大樹に難しい事言わないであげて?
父親の威厳を無くしちゃう。
大樹の知ってることわざは『目くそ鼻くそを笑う』程度なんだよ」
「目くそ…?耳くそじゃなかったか?
『鼻くそ耳くそを笑う』だろ?」
「バカだね。耳くそは出て来ないよ。
あれ…?前にもこんな話しをした気がする…
気のせい?うーん……」


