「紫龍は何て言ってる?
嫌々店を手伝ってるの?」
「ううん…レジ打ちは楽しいって言ってた。
もっと色々やらせてって……
でもね、あの子気を遣うところがあるから、私の前では他にやりたい事があるなんて、言えないんだよ。
どうしよう…
私…母親なのに、あの子の心が見えない……」
流星に悩みを打ち明けた事で、益々そんな気がして来た。
紫龍の心を知らずに、ファーム月岡を押し付けているんじゃないかって…
俯く私の頬を温かい両手が包み、顔を上げさせた。
目の前の優しい瞳は微笑んでいた。
「大丈夫、心配いらない」
と、茶色の瞳が語っていた。
「その問題はすぐに解決するよ。
俺に任せて」
「どうするの?」
「直に分かる。不安にならずに待っていて…
ああ…アンタレスが西の稜線に沈みそうだ…
もう戻らないと……
紫、またね…愛してる」
「うん…私も…」
私の頬を撫でる綺麗な指先…
茶色の瞳が艶めいて…
ゆっくりと顔が近付き…唇が触れた。
目を閉じて唇の上の彼の温もりに浸る。
流星…逢えて嬉しかった…
また夢の中に逢いに来てね……
―――――…
瞼の裏に朝の光りの気配を感じる。
鳥のさえずりも耳に聴こえて来た。
覚醒して行く意識と共に、唇の上の流星の温もりが薄れて…消えて……
あれ…?
変だよ?
流星の温もりは消えたのに、何故かまだ唇の上が温かい。
寝ぼけ眼をゆっくり開くと、耳元には低い声が…
「おい…紫…離れろ」
「あ、何だ。大樹か」
当たり前だけどここはいつもの寝室で、そして隣には大樹が寝ていた。
どうやら私は大樹に腕と足を絡めて寝ていたみたいで、
大樹が私の腕を乱暴に退けて、むくりと上体を起こした。


