書斎に籠もっていた紫龍がリビングに下りて来て、自分で肩をトントン叩きながら、こう言ったことがある。
「母さん、ピップエレキバンとかある?」
まだ中学生なのに、今からピップエレキバンって……
買い置きがなかったので、紫龍の肩を揉んであげ、ソファーで会話した。
「写真の父さんて、何ヶ国語喋れんの?
本当にあの本全部読んでたの?」
「うん、辞書も引かずに読んでいたよ。
流星の喋れる言語は、英語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語……後何だったかな?
台湾からのツアー客の応対も上手だったし…それから……」
「…… すげぇ…追い付ける気がしない…」
「ふふっ ゆっくり読めばいいよ。
今は何読んでるの?」
「フランスの長編小説。
フランス語って難しい…
辞書引いても分かんない言い回しが沢山ある。
母さんに聞いてもフランス語は分かんないしな…
父さんは…日本語も時々間違えるから論外。
ねぇ母さん、フランス人の知り合い、いないの?」
紫龍はやっぱり流星の子だとしみじみ思う。
知識欲がすごいと言うか…
必要だと思う事を自分で選別し、自分で調べて身に付けて行く。
彩香や風香はテスト前に教科書開いてワタワタしているけど、
紫龍に関しては、そんな子供らしい姿を見たことがない。
今日はそんな話しを流星にした。
楽しそうに聞いていた流星は、
「ピップエレキバン買ってあげて?」
と笑って言った。
体を捻り、背中を抱きしめる流星の顔を、真顔で見つめた。
「紫?どうした?」
「ねぇ流星…紫龍は頭のいい子だよ。
色んな可能性も、それを実現させる力も持っていると思うの」
「そうだね。俺もそう思うよ。
それで?紫は何を悩んでいるの?」」
「私……紫龍にファーム月岡を押し付けてないかな……
継いで欲しいけど…あの子が他に夢があるなら、無理強いしたくない」


