遠ざかるピンクのランドセルを見ながら、俺は一人畦道の途中に座り込み、溜息をついた。



順番ね…

留美の頭の中ではきっと、恋愛の手順に番号がふられているんだろうな…



そしてその順番が狂うと、今みたいに理不尽な目に合う。



面倒だな…

やっぱ留美と付き合うのは止めとこう…




面倒な目に合ったと帰宅した俺。

その日の夜8時頃、さらなる面倒に巻き込まれる事になる。




二階の書斎で読みかけの本を開いていると、一階のリビングで電話のベルの鳴る音が聴こえた。



三回鳴って家族の誰かが取り、暫くして母さんが大声で俺を呼ぶ。



この呼び方は怒っている時の呼び方だ…

俺、何かやらかしたか?




心当たりがまるでないが、一応身構えてリビングに下りて行くと、仁王立ちする母さんと目が合った。




「何?」



「何じゃない!
あんた今日、留美ちゃんに何したの!?」



「……さっきの電話、留美から?」



「稲田のおばさんから!

学校からの帰りに、あんたが留美ちゃんを押し倒して、無理やりキスしたって言う話しだよ!

留美ちゃんは泣きながら逃げたんだって?

稲田のおばさんは一部始終を、稲に隠れて見ていたそうだよ!

紫龍、どう言う事?本当なの?」





かなり事実がねじ曲がってしまっている。


キスしようとはしたけど、未遂だし、押し倒してもいない。


留美に張り手を食らわされ、突き飛ばされただけだ。




稲田のおばさんは一体何を見ていたのか…


良く見えない位置でのぞき見するくらいなら、

俺達の会話が聞こえる場所で、しっかり見物してもらいたい物だ。

そうすれば、変な誤解はされないのに…




呆れて無言でいると、それを「Yes」と解釈してしまった母さん。



俺にゲンゴツを一発くれてから、風呂上がりのパジャマを脱いで、普段着にあたふたと着替えをし始めた。



そして売れ残りの『フラノの蒙古斑(シュークリーム)』10個を箱に詰め、


「留美ちゃんの家に謝りに行ってくる!」

と、玄関を飛び出して行った。




一緒に来いと言われなかっただけマシかな…


殴られた頭をさすりながら書斎に戻ろうとしていると、

階段の途中で、今度は父さんに呼び止められる。




これには驚いた。

父さんはくだらない事で俺を叱ったりしない。


留美との関係を冷やかされた事も、今までは一度もない。


それなのに…