留美の落ち着きのない目線に無理に視線を合わせたが、すぐに逸らされ、その視線は一点で止まった。



耳まで真っ赤な留美が何に視線を止めたかと言うと、俺の唇だ。



そうか。

キスして欲しいってことか。

意外にませた考え方するんだな。



留美がしたいって言うなら、してやってもいいかな…

別に初めてという訳でもないし。




俺のファーストキスは、記憶にない幼い頃。

相手は母さん父さんの友人の、瑞希って人。



今でも数年に一度は東京から遊びに来るその人は、俺が二歳位の時に…



「うそー!大ちゃんにそっくりじゃん!超可愛い!

何この目、鼻、口!
可愛い過ぎ〜ブチュー!」


と、俺の唇を奪ったらしい。




「紫龍のファーストキスの相手は瑞希君だよ」

と、母さんは笑って俺に説明した。




そう…
俺のファーストキスの相手は、オカマのお兄さん。



だからキスと言う物に何の憧れもなく、特別な物と捉えないようにしている。



そんな訳で留美を特別に好きだとは思わないけど、望むならしてやってもいいと言う気持ちになった。



誰も見ていない時に手を繋いで、一緒に帰って、時々キスすれば、

今日みたいに泣いたり、煩いこと言わないんだろ?

望むところだ。




依然、真っ赤な顔して俺の唇を見続けている留美。

彼女の顎に指を掛け、ゆっくりと顔を近付けて行く。



すると留美は目を真ん丸にして驚いて…

けど次の瞬間、唇が触れる前に、思いっ切り左頬を張られた。



バチンと大きな音が、黄金色の田圃に響く。

その後は胸元を全力で押され、俺は地面に尻餅をついた。




「紫龍君のバカ!」




「は?何でだよ…
キスして欲しかったんじゃねぇの?」




「そ…そんなこと思ってないよ!

私は…私は『好きだよ』って、言って欲しかっただけ!」





何だよそれ…

「ス」を連呼した後に唇を見ていたのは、

「好きだ」と言えって意味かよ…紛らわしいな。




「キ、キスは『好き』って言ってもらってからするんだもん!

順番が違うよ!紫龍君のバカ!」





言いたい事を叫んで、またしても泣きながら留美は駆けて行った。