重なる目線。灰原の切れ長の瞳は幾つもの光を閉じ込めて細まる事なくあたしを見つめる。

「俺を守ろうとしなくていい。そんな事される位なら仮面なんかいらない。阿呆」


ああ、気付いてましたか。

「それから、名前で呼べとは言ったけどフルネームは禁止。意味不明。」


照れたような顔、今日はこの人の沢山の表情を見る気がする。


「…それなら」


そんな灰原にあたしも頬が緩んだ。


「あ?」

「千景はあたしの名を呼ばないで下さいね」


あたしの言葉に灰原はその目を曇らせる事なく

「…嫌?」


と呟いた。

あたしは少し、微笑む。灰原は何故か不機嫌に頬を染めるなんて器用な表情をした。





「あなたに名前を呼ばれると胸がザワザワして落ち着きません」




――――それは平和な春の昼下がり。








第二章-終わり-