……姫が居ないと、こんなにも空気が荒
むものなのか。
いや、正確に言えば、──連れ去られる
と、か。
連れ去られたと言っても、夏の日のよう
な、他の暴走族に、とかそんな重大なも
のじゃなくて。
ただ姫は、姫のクラスの男に呼び出され
ただけなんだけど。
三十分前、資料室には姫も居て、皆で下
らない他愛ない話をしていたら、不意に
扉がノックされて。
ここが俺たちの縄張りだと知っていてノ
ックをするやつなんてそうそう居ないか
ら、誰かと思えば、ドアから覗いたのは
、無駄に爽やかそうな男で。
その男が「麗」って姫を呼び捨てた刹那
、ピリッとその場の空気が張り詰めた。
どうやらその男は、枚田と言って、劇を
やるときの相手役らしい。なんでもこれ
から劇の練習があるようで、呼びに来た
んだとか。
そして、劇の練習に行ってしまった姫。
──で、今に至る、と。


