でも、譲りたくない。
俺が初めて好きになった、女の子だから。簡単にこの気持ちを捨てたりしたくない。
「雅も結構スケベなとこあるよね」
「スケ……っ!?」
びっくりしたように目を真ん丸くした麗ちゃんは、「スケベって!」と笑った。
そんな麗ちゃんにつられるように、俺も笑う。
好きな人が笑ってて、その隣で自分も笑ってる。──些細なことなのに、とても幸福で。
多分今、世界中で自分が一番幸せ者かもしれない、と。
柄にもなく、そんなことを考えた。
「あれ、もう帰んの?」
放課後、チャイムが鳴ったと同時に資料室を出ようとした俺に、仁斗がそう訊いてきた。


