「去年の春に来てたさ、高梨遥って人覚えてるか?」
覚えてるも何も、この半年、忘れようとしても忘れられなかった名前。
未だに名前を聞くだけで、胸が鈍く痛むその名前。
「……実習生だろ?」
敢えて素っ気なく答えれば、そうそう、と返事が返ってきた。
「それがこの前、俺がばあちゃんの見舞いに行った時に病院で会ったんだけどさあ」
──なんかもう、長くないらしいよ。
頭が真っ白になる、というのはこういう事かと、どこかで冷静な自分もいた。
ただ、気がついた時にはもう、無機質な白いドアの前にいて。
ドア横のプレートには「高梨遥」と確かにその文字が刻まれていた。


