それを理解していなかったセシリアは、両親と兄に愛され、自分がしあわせだと思い込んでいる。
 公爵が執事に命じて贈らせたプレゼントを、お父様からいただいたのだと大切にしている様子は、思わず涙を誘うようなものだったらしい。
 だから、両親と兄以外の親類や屋敷の使用人はすべて彼女に甘く、その望みは何でも叶えていた。
(何を望んでも全部叶えられるのだから、わがまま令嬢になるはずよね)
 他人事のように思いながら、セシリアは鳥肉ときのこ、玉ねぎと牛乳。そしてクリームチーズを取り出す。
「あとはバターとオリーブオイルと、お米かな。ここって西洋風ファンタジーの世界なのに、食生活は現代の日本なみに色々とあるのよね」
 そうしていると、慌てた様子の料理長がセシリアの前に立ち塞がった。
「お嬢様、もしお怪我をしてしまったら大変なことになります。料理なら、私がいたしますので」
 ひさしぶりに料理をしたいという、気軽な気持ちでここまで来たセシリアは、自分がまだ十一歳の子供だということ。そして公爵家の令嬢だったことを思い出す。