「遥香」


呼ばれて顔をあげる。
彼方が目の前にいて「これ」と差し出してきたもの。
それは、第二ボタンだった。


受け取って、大切にぎゅっと握りしめる。


「彼方もくれるんだ」

「うん」

「ありがと」


彼方が照れたように顔をそむける。


第二ボタン。中学の3年間、彼方の心臓の1番近くにあったものだ。


「……夢、」

「……?」

「絶対、叶えような」


不器用に白い歯を見せて笑う彼方に深く頷いた。


だけど──彼方、ごめん。

嘘ついて。

甲子園の夢は近くで必ず見守るけど、
そのあとの夢が叶うまでは私、生きられないかもしれない。


心の中の言葉は、ぐっと飲み込んだ。


こうして、私たちの中学校生活は幕を閉じた。