今、エスターって呼んだ?

 思わず目を輝かせると、クールな陛下が初めて微笑を浮かべた。


「名を口にした程度で嬉しそうにするな」


 感情がダダ漏れだ。

 もう、この人の前では冷たい悪役令嬢なんて演じられない。容姿だけが取り柄のひとりで生きられる強い女性のフリをしても、彼の一挙一動に舞い上がってしまう。


『あなたを愛しているから、ここに来たんです』


 倉庫での告白が頭に響く。急に意識して、頬が熱くなった。

 もう記憶にないかな?告白について返事をもらえたわけじゃないし、話題を振られることもない。

 婚約者としても薬師としても用済みとなった今、いつまでここにいていいんだろう。

 目を逸らしてうつむくと、低く甘い声が降る。


「明日も、また部屋へ来い」

「え……?」

「明後日もその次も、これからずっとだ。お前は危なっかしくて目が離せない。俺の目の届くところで、そうやって嬉しそうに笑っていろ」