大広間で少しカデアトに似た開放的な気持ちに浸っていると、エルメナの視線がイリアに向けられ背筋を伸ばした。

「それではイリア様。最後の特訓に参ります。ここまで早い段階で淑女の嗜みを取得したこと、私は誇りに思います」

「ありがとうございます」

「ここからはお茶会よりも上の段階になる舞踏会に向けて取り組んで参ります」

舞踏会という言葉に緊張感が走るのは令嬢としての嗜みを身につけても尚、殿方を落とす方法を身につけられていない不安からくるものだった。

それを悟られないようにエルメナに御教授願うと、見知らぬ男性が二人の元へとやって来ると静かに頭を下げた。

「彼は私の付き人のセンル。今日は彼と一緒にダンスの特訓をして貰います」

「よろしくお願いします、センル様」

「こちらこそよろしくお願いします」

胸に手を添え目を伏せるだけの仕草だというのに、洗練されたその動きに釘付けになった。

人の動作がこんなにも相手に与える印象操作になるのだと実感し、負けじと可憐な令嬢という印象を与えるべくイリアもドレスの裾を軽く摘んだ。

エルメナ以外の相手と特訓するのは初めてのことだというのに、先程のような緊張感はなかった。