ただ目の前にいるナルという少女も、ドラゴンの血を受け継ぐ者の一人。そんな彼女にこの世界での一般的なモテ技を伝授して貰えれば、実験の答えの一つが手に入る。

勇気を振り絞って妙に照れが混じりながらも、イリアはこの世界でのテクニックを教わるべく口を開いた。

「ナルは、その……えっと、異性の相手を振り向かせる方法とかって知ってる?」

聞いてしまった、もう後戻りは出来ない。ごくりと音を立てながら唾を飲み込むと、ナルの表情はにやりと歪む。

「イリアったら好きな人でもいるの?」

「そっそうじゃないの……私、婚約者をどうにかして見つけなきゃいけないの。でも恋愛とかそういうの経験したことないから、よく分からなくて」

恋愛指南書で身につけたテクニックがあればきっと、誰かが自分を好きになってくれるはずだとそう信じていた。

ただそのテクニックはヒューリには通用しなかったのだ。

着いてきた結果がどれも自分がむず痒い気持ちになるばかりで、何も得られていない。

「正直不安なの。自分には恋愛というものは出来ないんじゃないかって」

「イリア」

俯く彼女にナルがそっと肩を包み込むと優しく頭を撫でてくれた。

「大丈夫よ。恋の運命の歯車っていつ動くか誰にも分からないものなの。でもこれだけは知っておいて、恋に落ちるのは本当に一瞬だから」

「本当?」

「ええ。本当よ。だからそんなに恋に臆病にならなくてもいいの。それにーー自分では気づかないうちに落ちていたりもするからね」

意味ありげに片目を閉じて微笑まれると何故か不思議と大丈夫な気がしてきて、その言葉に強く頷いた。

ただヒューリに対するこの感情がドラゴンの血を受け継いでいる研究対象としての感情なのか、それまた全く別の何かなのかは今のイリアには分からないままだった。