何かおかしなことをしてしまったのかとノートで顔を隠すが、そんなイリアの頭をポンっとヒューリが撫でた。

「少し休憩しよう。中の二人も夢中になりすぎてるから、止めないと」

何も気にしていない様子のヒューリは、動揺しているイリアに気づくこともなく小屋へと足を動かし始めた。

またしても謎の胸のざわめきが波立ってそわそわしてしまう体をどうにかしようと、隣で首を傾げたヴァイルに抱きついた。

ーーこのソワソワする正体は一体……?

呼吸を整えても息苦しさは付き纏い、おまけに体も火照ってくる。風邪でも引いたのだろうかと思うが、それにしても体の怠さは症状は特に見られない。

きっと研究に夢中になりすぎてしまったせいだと頭を切り替えようとするものの、先程ヒューリに頭を触られた感覚が妙に残っていて切り替えようにも余計に糸が絡まるように落ち着かない。

ヴァイルがどうしたのかと短く鳴いて、額を擦り付けてきた。

「これもこの地下世界のせい、なのかな」

空気中に漂っているという魔力の粒子のせいなのかもしれないと、今は調べることの出来ない仮説のせいにしてそっとヴァイルから離れた。

小屋の中からナルがイリアを呼ぶ声が聞こえて、慌ててイリアも小屋へと向かう。

ーー今日はたくさん頑張ったから、少し休もう。

気づけば日中教わっていた令嬢としての立ち振る舞いを忘れていたことに気づき、背筋を伸ばせば少しだけ冷静さが戻ってきた。

中に入って待っていた三人に自然な笑みを向けて、この場にいられる限られた時間を堪能したのだった。