「ド、ドラゴン?ドラゴンって、あの何千年前に生存していたとかっていう伝説と空想の生物だよね?」

イリアは何とかしてこんがらがった頭を、持っている数々の知識で追いつこうと試みる。深呼吸をして冷静になって考えられるようにリセットし直し、父の直筆の書の頁を捲った。

『ドラゴン、それは五千年前に滅んだとされる架空の生物。人よりも知能が高く、群れを成して生活していたと言われる。ただその生物が忽然と姿を消した、それには聖者デウスが地上から引き離したからだということがようやくこの研究により分かった』

読み進めていくうちに、イリアの頭はいつの間にか冷静になり気づけば父の研究の成果にズルズルと惹き込まれていっていた。

『サデマンド山脈から線を引くように国境沿いに大きく広がる死を招くという森、ネグルヴァルト。あの森は古くから謎が多く、また肺を拘縮させ後に腐さらせるという致死性の高い猛毒な成分を含む霧が絶えず立ち込めていることから、誰も近づかない死の森と化している。そこに、大きな手がかりがあることを発見した』

イリアはその森の名前が記されているのを見て、全身の血液が一気に沸騰してあちこちの器官に興奮させているかのような感覚に陥った。

ーーついに見つけた……!有力な情報が記された本が!!

興奮のあまり口元が緩んでしまうのもお構い無しに、イリアは父の書いた書物をぎゅっと抱きしめた。

長年イリアが探し求めていた情報が書かれたこの世で一冊しかない大事な大事な本に、今日という縁談が失敗した残念な出だしから始まった一日が、一気に花が咲いたような気がした。

「よーし!」

読むべき本が見つかったイリアは薄暗い書斎を出て、本がじっくりと読める日当たりのいい部屋の窓際に陣を作って、イリアは吸い込まれるように本へと魂を注いだのだった。