バーリアス家ーーこのグランゼオの領域を納める伯爵家。爵位を上げるためには、自分の子供を使って何とか這い上がらねばならない世界。

そんな世界にイリアはやって来てしまったのだ。

従姉妹のアゼッタは十五歳にして持っている実力を認められ、舞踏会デビューを果たし婚約相手も見つけている程だ。

ーー親を失った私を養子に迎えてくれたのは感謝しているけれど、ここには本当に自由がないなあ。

イリアの両親はイリアが十ニ歳の誕生日を迎えた五日後に、論文発表会へと向かう移動途中の馬車を山賊に狙われ命を落とし、イリアの父の弟である伯父ナリダムに引き取られた。

それからと言うもの、このバーリアス家の一員としてこの屋敷で生活しているのだが、貴族としての礼儀の作法も女性としての嗜みも無縁だったイリアには、未だにあれやこれやが狭苦しいと感じてしまうのが本音だった。

「支度が終わったらすぐに応接間に来るように」

「はい、かしこまりました」

この歳になってようやく様になった綺麗で上品なお辞儀を見せつけたイリアだったが、そんなイリアには見向きもしないでエリーは寝室を後にした。

それと入れ替わるように複数の侍女達が一斉に入ってきたかと思えば、着せ替え人形のように着ていた寝巻きを剥ぎ取られていく。