優莉が勤める『クールブロン』は、フレンチレストランを関東近郊に展開する会社である。昼間は気楽に食べられるカジュアルなスタイル、一転して夜には本格派のフレンチを出すという二面性のある店だ。
記念すべき三十店舗目がオープンしたお祝いと称して、新年早々、外資系高級ホテルで全社員を招待したパーティーが開かれていた。

片側の壁一面に和食やフレンチはもちろん、中華やイタリアン、スペイン料理が並んだ立食形式のため、出席者たちは皿を片手に料理を楽しんだり、あちらこちらで輪を作って歓談したりしている。クールブロン自由が丘店に勤める優莉も招待客のひとりだ。

大学を卒業してクールブロンに入社したのは昨年の四月。研修期間を経て店舗に配属されてから一年に満たない新入社員である。


「さぁみなさま、大変お待たせいたしました! 本日のラストを飾るにふさわしい大抽選会をはじめたいと思います!」


マイクを握った司会者が高らかに宣言すると、出席者たちの間から期待に胸をふくらませた歓声があがる。

抽選会よりも豪華な料理に目をとられている優莉は、「え? もう終わりなの?」と思わず漏らした。
もう少しゆっくり食べていたいのにと、つい恨めしげに司会者を見るが、顔を高揚させた彼は当然ながらそんな優莉の気持ちを知る由もない。