霧生に連れられ溜まり場に戻ってきた私は、総長に言われた通りにお風呂に入り部屋着に着替えた。
そして今、幹部室のいつものソファーで、霧生に後ろから包み込まれる様に抱き締められている。
顔には、さっき貼ってもらったガーデが痛々しく付いてる。
この状態···なんだろうか。
霧生さん、私の首に顔を埋めてる場合じゃないですよ。

居心地の悪さにもぞもぞと動けば、
「動くんじゃねぇ」
と叱られる。
だけど、このバカップルみたいな座り方はどうなんだろうか。
霧生の彼女さんに悪いよね。
それに、ドキドキが止まらないんですけど。
「霧生、あのさ···」
「んだよ?」
「えっと、これは不味いんじゃないかな」
「うっせえよ。死ぬほど心配したんだ。少しぐらい安心させろ」
「う、うん、そうだね」
そんな風に言われたら離れてって言えなくなるじゃないか。
それに、さっき好きだって自覚したから、こう言うの嬉しいと思っちゃうし。

「神楽、話してぇ事あんだけど」
私の首元から顔を上げた霧生。
「あ。うん」
「お前には知ってて貰いてぇから」
「うん」
「自分の気持ちに嘘をつくのはもう止める」
「そっか」
「だから、聞いてくれ」
「分かった」
頷いた私に霧生は、懺悔する様に話しだした。
彼女と別れられなかった訳と、今も囚われている理由を。
悲しくて辛い、霧生と彼女の過去に、胸が締め付けられた。
最低な事をしてしまった彼女と、覚えたての遊びに安易に興じた霧生。
第三者から言わせれば、どっちもどっちだ。
まぁ、反省して責任を取ろうとしてる霧生の方がちょっとはマシかな。
彼女は、霧生が好きで好きで仕方なかったんだとしても、人として女として、絶対やっちゃいけない事だったと思う
彼女は霧生にばっかり責任を押し付けないで、自分にも責任があるって分からなきゃ駄目だ。
その上でキチンと話合わなきゃ。
霧生にだけ責任を押し付けて、縛り付けても意味なんてないよ。

関係のない私が言える事なんて無いのかも知れない。
でも、霧生がこんなにも苦しんでいるのを知ってしまったら、見捨てられない。
2人の間に割り込みたい訳じゃない。
霧生が彼女と居て幸せならそれでいい。
だけど···そうじゃないのなら···。
好きでいるぐらいいいかな。
彼女にはなれなくても、仲間として側にいて、霧生を支えたいと思ってしまう。
選んだこの道が、茨の道だと知っても尚、霧生を諦める事が出来ない。

振り向いてもらえなくても良い。
この気持ちを伝えられなくてもいい。
ただ、側にさえ居られれば。


「霧生、苦しかったね」
私のお腹を抱き締める霧生の腕にそっと手を添えた。
「軽蔑しねぇのか?」
「まぁ···そうだね。最低だと思うけど。霧生は十分苦しんだと思うから、私は味方になるよ」
「神楽···ありがとう」
「うん」
「ケジメを必ず付けるから待っててくれ」
「···うん」
待つ先に何があるのか分からないけれど、霧生の言葉を信じようと決めた。
私の返事に、覆い被さる霧生の大きな身体が小さく震えた気がした。
今だけ···ほんの少しだけ、このままで、互いの熱を分け合おう。
先の未来に希望を求めて。