『美羽さんを、俺にください』

 あのときはお金を払ってもらう代わりに私を売るのか!と、お父さんに対してツッコみたい衝動しかなかった。

 ただあとからよくよく考えてみれば、あれはもしかしたら、プロポーズだったのではないかと思えてきた。

 だって、あんなセリフドラマでしか聞かないもん。結婚前提に付き合っている男女が彼女の両親に挨拶に行った場面でしか。

 でも、まだお互いの想いを確認してからひと月も時間が経っていないのに、結婚しようなんて思うかな? お父さんや私に気を使わせないためのジョークだったのかもしれない。

 臆病な私は、帰りの飛行機の中でもそれについてはひとことも触れられなかった。

 結局、お父さんを連れて実家の近くの病院に連れていった。入院するなら、空気の綺麗なところがいいとお父さんが駄々をこねたからだ。

 しかし、簡単な画像検査をしただけでお父さんは入院せずに実家に帰されることとなった。緊急性はないと判断されたのだ。内視鏡検査の予約だけして、一息つくこととなった。