甘く囁かれて額に口づけられる。私の心臓は暴発寸前だった。

「いいか。お前はもう俺のものだ。今後、他の男とこういうことになってはいけない。わかるな?」

「へ……」

「お前は俺の専属ってこと」

 それはつまり、私が社長の彼女の座に就いてしまったといことだろうか。現実離れしすぎていて、にわかに信じがたい。一晩限りの夢だと言われた方が傷つきはするけれど、あっさり信じられるような気がする。

「返事は?」

「は、はい」

「よし」

 うっかりうなずくと、社長はにっと口の端を吊り上がらせた。

「さて、ここからは色気のない相談になる。お前の実家のギャラリー、どうするかまだ結論は出ていないんだよな?」

「え、ええ」

 弱気な発言をしてしまったけど、心のどこかではやっぱりおじいちゃんのギャラリーをなくしたくないという気持ちが残っている。

「とにかく、例の絵を探してこい。すべてはそれからだ」

 社長は私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴になでる。

 ギャラリーを存続させるにしても、諦めるにしても、一度乗りかけた船だ。途中で放り出すのは、こっちとしてもスッキリしない。