「手、痛いよ」



渡り廊下で、彼の背中にそう伝えると、


「あ、ごめん」


と言って、ようやく手を離してくれた。



「本当大丈夫だから。体育館戻って」


「足も肩も、痛そうじゃん」


「この前の掃除の時もそうだけど、わたしに構わなくていいから」


「だって俺……昔、お前にひどいこといっぱいした」


「はい?」


「今思うと、すげー悪かったって。あの時、お前の家ゴタゴタして大変だったのに」



首に手を当て、大和くんは消えそうな声を出す。


昔近所のいじめっ子だった彼は、今さらよく分からない反省をしているらしい。



「いいよ。今更そんなの、どうでも」



そう伝えると、彼は下を向いた。


わたしはその隙を見計らい、彼から離れ、小走りで校舎へ向かった。


モテることに無関心なのは時に罪だ。ちょっとは自覚してほしい。



やっぱり物事は嫌な方向へと進んでいった。



「ボール、肩にぶつかっただけなのに、大げさすぎー」


「てかあいつトロすぎじゃん? 体育祭で一緒になりたくないよね」



教室移動の時。後ろから大和くんファンの女子たちのわざとらしい声が聞こえた。


一緒に移動していたクラスメイトが、気まずそうな顔になった。



まるで、見えない鎖につながれているみたい。


どこにも行けないし、行こうともしない自分がもどかしい。



『優にぃは人間関係リセットしたくなる時ある?』


『あるよ』『でもやっぱしたくない』


『なんで?』


『リセットしたら仲いい子とも離れるから』



「うーん。仲いい子かぁ」



優にぃからの返信をじっと見つめた。



学校生活を一緒に過ごしてくれるクラスメイトはいるけれど。


わたしには本当に仲のいい友達はいない気がする。


なんでも話せる、そういう存在が身近にいない。



無性に優にぃに会いたくなった。



『そろそろ夏服見たいなー。買い物行こうよ!』



普段会えないし、今の人間関係の輪にいないからこそ、優にぃにならぶつけられる。