「やっぱ、相沢さん巻き込んたのは失敗だったなあ。実際来てみてどうだった? 意味わかんなかっただろ」
「……うん。わかんな、かった」
「片足突っ込ませたのは俺だから、責任は取るけどね。ちゃんと教えてあげるよ、またゆっくり」
またゆっくり、というのは日を改めるということなんだろう。
慶一郎さんがいる前では話せないんだろうなと、なんとなく察した。
「あのさ。本多が俺と同じ西高に行かなかった理由、わかる?」
「……わかんな……っあ、中島くんと仲が悪い、から?」
あたしの答えにふと笑い、「それもあるだろうけど、」と続ける。
「本多が黒蘭を抜けたから、だよ。……正確に言えば、あいつは追放された。“裏切り者”として」
「……へ、」
裏切り者。その言葉がとても重たく響いた。
理解が追いつかない。
だって、黒蘭の支配者は慶一郎さんで。
中島くんも、本多くんは慶一郎さんのお気に入りだと言っていたのに。
「詳しいことはまた今度ね。早いとこ車に戻らないと怪しまれるし。ほら急ぐよ」
「う、うん」
「黒蘭には三崎慶一郎が支配する黒蘭“ 会 ”と、もう一人別の男が支配する、黒蘭っていう“ 族 ”があるんだ。ふたつは、まったくの別物」
そこで会話は途切れた。
もう、車の手前まで来ていたから。
中に入ると煙草の残り香が鼻をかすめた。
危険な香り。
あたしはもう足を踏み入れてしまっていて、引き返せないんだと。
バタン、と重くドアが閉まった瞬間。
この人たちの住む昏い世界に
囚われた気がした──。